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Infantile papular acrodermatitis disease(=Gianotti病;以下I. P. A. D. と略す)は1955年イタリアのミラノ大学のGianotti教授によつて最初に記載報告された,小児の主として四肢をおかす特徴的な苔癬様丘疹性皮膚疾患である1).その後欧米においては相当例の報告があり,本邦においても若干の文献をみるに至つている2,3).著者は1970年秋より1カ年間イタリア政府の交換研究員としてミラノ大学皮膚科学教室において本疾患の最初の記載者Gianlotti教授の直接の指導をうける機会に恵まれた.その際,本疾患の臨床的定義および命名法に関しての同教授の考え方が,他の著者による文献において,不十分にまたは誤つて解釈されて,それが広く一般に流布していることを知つた.例えばI. P. A. D. の必発の随伴症状である肝炎に関する記載が,他の文献には強調されていない.本症にみられる肝炎は小児のみにおこり,検査成績がきわめて著しい異常を示すにもかかわらず全身状態・予後ともに良好であり,皮膚症状を主訴として来院してはじめて発見されるというきわめて特異なもので,ひとり皮膚科領域のみならず,肝炎の臨床や疫学・病理に関心をもつ他の領域の研究者の大きな関心をひくに足るものである.また,I. P. A. D. は一般に最初の記載者にちなんでGianotti-Crosti症候群と呼ばれることが多いが,これは次に述べる2つの理由により妥当ではない.すなわち後に詳しく述べるように,本症がきわめて特徴的な症状をそなえた単一の独立疾患であることは明らかであるから「症候群」なる名称は不適切である.かつまたGianottiは,I. P. A. D. とは別に,やはり小児の四肢に発生するが,皮疹の形態や分布を異にし,肝炎の合併を常に欠いた瘙痒性の皮膚疾患を記載4,5)し,これに対しinfantile papular-similvesicular acrodermatitis syndrome(=Gianotti症候群)という名称を与えている.I. P. A. D. をGianotti-Crosti症候群という名称で呼ぶことは,この疾患との無用の混乱・混同を招くおそれが多分にある.故にこれら2疾患がもし冠名疾患として呼ばれるとしたら,後者こそGianotti症候群と呼ばれるべきものであり,I. P. A. D. はGianotti(-Crosti)病と呼ばれるべきである.
著者はここにGianotti教授の御厚意により使用を許されたミラノ大学の症例をつかつて,同教授の考え方にもとづいて本疾患のあらましを総括し,あわせて必発の合併症状である肝炎に関するいくつかの興味ある新知見を紹介したいと思う.
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