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大学を卒業して勤務初日に教授新患外来につかせていただいた.今でも忘れもしないが,最初に受診された方が,悪性黒色腫の患者さんで,鼻の上にとてつもなく巨大な結節を有していた.どうしてここまで放置していたのだろうと思ったのが懐かしい.皮膚科医として働きはじめて15年以上が過ぎたが,駆け出しの頃と比較すると進行期の皮膚癌を見る機会は減ってきたように思う.皮膚癌の啓蒙活動が進んでいるためと考えるが,それでも時々信じられないくらい大きくなり悪臭を伴う有棘細胞癌や,歩くのすら不自由と思われる足底の悪性黒色腫を見ることもある.「痛くないので大丈夫だと思った」などと聞くことも珍しくはない.他の臓器の悪性腫瘍と比較して,皮膚癌は目に見えるので,ある程度スクリーニングは自分でも可能と思われる.大腸ポリープがあるかどうかはさすがに内視鏡検査をしなければわからないが,良性か悪性かは別として,皮膚にできものができているのを自覚することは可能である.その目に見えているものを,「痛くないから大丈夫」と思うのか,「ちょっと心配だから病院に行く」のか,その判断はさまざまであることに改めて最近考えているところである.時々公衆浴場で何らかの皮膚癌を見つけてしまうことがあるが,声をかけるべきか悩むこともある.
月並みではあるが皮膚科医は2つの目さえあれば,診断ができる.しかしながら既に多臓器に転移している癌を診断した場合には,どうしてもう少し早く病院に来てくれなかったのかなと思う.逆にものすごく深刻そうな顔をしながら申し訳なさそうに,多発している脂漏性角化症を見せに来られる方もいる.あるいは,悪性黒色腫を皮膚科以外の施設で不十分に切除されてから紹介を受けることもある.癌の治療の鉄則は今も昔も早期発見早期治療に尽きる訳であるから改めて皮膚癌の啓蒙活動の重要性とともにより専門的に正確な診断が重要であることを痛切に感じているところである.
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