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臨床検査はいうまでもなく現代の医療に欠かせないものですが,あまり信用しすぎると落とし穴にはまることがあります.文字がいったん活字になると,あたかも真実であるような錯覚を与えることがあるのと同様に,検査データもコンピュータや伝票の上に載ると,それは正確なもので誤りなど存在しないように感じられてしまうことがあります.一例を挙げると,ELISAにおける自己抗体の陽性・陰性の判定で,正常上限をわずかに超えているような場合(例えば20以下が陰性の場合で測定値が22とか23というような場合)に自動的に陽性と判定されてしまうことはよく経験されます.しかし,これを何の疑いももたずに陽性と判断して重要な所見の一つに入れてしまうと,診断や治療の方向性などに大きく誤った影響を及ぼしてしまうこともあります.
シアル化糖鎖抗原(KL-6)は間質性肺炎の血清学的マーカーとして有用で,皮膚科においても膠原病(強皮症や皮膚筋炎など)の診療等でしばしば測定されています.先日,皮膚科と他科のオーダーが重複してしまい,KL-6を同一患者の同一検体で2回(つまりduplicateで!)測定してしまうことが起きました.もちろんこれは許されない失態であり恥ずかしい限りですが,奇妙なことに,出てきた2つの数値には300 U/ml近い開きがあったのです.前回の値は約1,900 U/mlであり,今回の値の一方の数値をとれば「やや増悪」,もう一方の数値をとれば「やや改善」であり,正反対の解釈になってしまいます.われわれの施設だけなのかもしれませんが,KL-6は測定値が約10%はばらつくのだそうです.つまり,数値が1の位まで表示されるとそれはすべて正確なような気がしてしまいますが,有効数字は2桁程度であるわけで,1.9×103U/mlと表示するほうが現実に即しているといえるかもしれません.
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