- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
診療システムについて 診療設備のもようについてお話する前に,こちらの診療システムが現在の日本のそれと多少ちがうところがありますので,それについて少しくお話いたしましよう。それはprivate patientとstate patient (このうちには一部有料患者を含む)というふうに,その取扱上患者がはつきりと分類されていることです。private patientは何から何まですべて有料で,しかもそれがかなりexp—ensiveですが,他のものは一部有料か,或は全然無料です。從つてこのprivate patientは初診からはじまつて手術,後療法などすべて主として教授自らこれを擔當するわけで,學生はもちろん,教室員もタツチいたしません。日本でいえば特等室患者に相當するものとでもいえましようか。否それよりももつと鄭重な取扱いをうけます。この患者に對するナースのサービス振りもいたれりつくせりといいたい位です。例えば,手術後麻酔が完全にさめるまでは特別室のrecovery roomに入れられて,ナースがつきつきりの特別サービスです。
これに反して,他の無料患者(一部有料患者も含む)は,初診から手術,後療法などすべて醫局員の責任においてやります。但し一度は治療する前に,教授に相談してからその方針を決定することになつています。これをcheck clinicと呼んでおります。手術はもちろん,後療法についても主治醫は自分の考え通りにやつてよいのです。若し必要があれば,手術室へ教授を呼んでその指示をうけることはありますが,教授自ら醫局員の手術を指示したり,ヘルプするようなことは殆んどありません。また後療法についても,教授自ら手を下してやるということは殆んどありません。それだけに各醫局員は自分の受持患者については充分勉強しておく必要があり,その手術方法についても一應の知識を準備しておかなくてはならないわけです。たゞフレツシマンの場合には古參の醫局員が教えることにはなつていますが手術の種類によつては醫局員同志あまりよく知らないものもありますから,そんな場合には適當に始末しているようです。日本だとこんな場合があつても,教授の總廻診の際には化の皮が現われやすいのですが,こちらでは教授はそんなに細かく廻診をやらないので,そのまゝ闇にかくれてしまうこともあるのでしよう。稀にはこんな目にあう患者もこのクラスの中にはいるわけです。これらの患者は,日本でいえば學用患者,又は社會保障制度による特別カード階級の患者に相當するものでしよう。從つてこれらの患者は醫局員の指導のもとに,學生實習の對象にもなることはもちろんです。
Copyright © 1953, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.