- 有料閲覧
- 文献概要
薬疹の頻度は皮膚科外来患者の2%程度といわれており,比較的ありふれた疾患といえる.薬疹への対応は人によりさまざまだと思うが,処方されている薬剤について聴取し,これまでの薬疹の報告や,内服開始から皮疹出現までの期間などと照らし合わせる.さらに皮疹も評価したうえで被疑薬の検討や薬疹としての重症度を判断する.次に,絞り込んだ被疑薬の中止ないしは変更を主治医に依頼し,軽症と判断すれば外来で外用や内服による治療を行う,というのが一般的であろう.しかし,新しいタイプの薬剤の開発により,こういった対応がそぐわない例も多くなってきた.例えば,肺癌治療薬のゲフィチニブ(イレッサ (R))である.承認と同時に処方が急増したため,痤瘡様皮疹など多彩な皮膚症状を経験された先生方も多いのではないだろうか? この薬剤の場合,副作用として皮膚症状の頻度は高いがその他の重篤な副作用が少なく,症例によっては劇的な治療効果をもたらすために,副作用が通常の皮膚症状だけであれば内服はそのまま継続となる.つまり副作用としての皮膚症状が存在しても,使用を続ける薬剤なわけである.私自身も,皮疹が広範囲な場合や,患者さんの苦痛が強ければ主治医に休薬を依頼するが,通常は対症的に治療しながら経過を観察している.皮膚の症状がコントロールできる範囲内であれば,治療効果のほうを優先するのが患者さんの利益になると考えているためである.もちろん十分コントロールできていれば問題ないのだが,市中の病院で皮膚症状に対する十分な治療を受けずに治療を継続している患者さんを診察したこともある.聞いてみると「肺癌にはよく効いているのだから,皮膚の症状ぐらい我慢しなさい」と主治医に言われたとのこと.皮膚科医としては皮膚症状を軽く見られているようで内心穏やかではない.しかし,よく考えてみれば,私自身皮膚科の領域では学会報告をしても,他科の医師に役立つようにその情報や対処法を丁寧に説明したことや公開したことはないのだ.つまり,その主治医を責める資格は自分にはないのだった.今回たまたま,製薬会社がゲフィチニブの皮膚障害管理のパンフレットを作成する際に監修の一人として参加する機会を得た.幸いにして,完成したパンフレットは肺癌治療医に参考になると好評だったようであるが,それ以上に患者さんの利益につながる仕事ができたことはうれしかった.この経験から,新しい薬剤の皮膚症状の情報およびその対処法を,実際に処方している他科の医師に提供し,啓蒙することも皮膚科医の新しい役割ではなかろうかと考えるようになった.さらに,このような役割を果たしてゆくことは,結果的に皮膚科医の存在意義を増すことにもつながるのではないだろうか.(〒700-8558 岡山市鹿田町2-5-1)
Copyright © 2006, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.