Derm.2006
心は衰えるものなのか?
高橋 毅法
1
1筑波大学臨床医学系皮膚科
pp.60
発行日 2006年4月1日
Published Date 2006/4/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1412100624
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年を経るとともに,初心を自身の片隅に留めおくことの苦しさが強まる.この戒めの難しさは昔から警告されており,唐の時代にはすでに詩のなかに出ている「初心不可忘」は世阿弥の花鏡に馴染み深い文として出ている.「しかれば当流に万能一徳の一句あり/初心忘るべからず/この句三ヶ条の口伝あり/是非の初心忘るべからず/時々の初心忘るべからず/老後の初心忘るべからず」.時々に経験する疾患に対して,過去から積み上げた学習は別物として,初めてのときと同様の新たな経験をしているとの切実な心情が必要である.その心組みこそが,疾患を主とし患者を従とする見方ではなく,疾患を有する個々の患者さんの人格を認めることに導き(医師になりたての緊張した臨床では無意識にできていたことなのに),そうでなければ医師としての本質を見失う.医学に対応させた解釈はこんなところだろうか? しかし,誰でもわかっており,できれば初心をもち続けたいと誰でも思っているが,どうしたらできるのだろうか? 人間の記憶は時とともに抗いがたく減退するもので,当時の気持ちも一緒に連れていかれる.では,医師としての心は果たして衰えるものなのか? 努力とは無縁の次元で,腫瘍による悲惨な死に対して本人や家族と同等の実感をもつことはできないが,雑念に甘えて腐っていくことへのきわめて辛い抵抗はできる可能性がある.興味をもつこと,模索すること,反省すること,自分を信じること,人のために泣くこと.「されば,この道を究め終りて見れば,花とて別には無きものなり.」(〒305-8575 茨城県つくば市天台1-1-1)
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