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はじめに
耳鼻咽喉科で扱う言語障害は,現在では先天性難聴や発達障害に伴うものが多い。失語症は少い。口蓋裂,舌癌の摘出などに伴う構音障害を含めることがある。言語の表出には音声の障害を伴うことがあるので,耳鼻咽喉科の言語障害の臨床は半世紀前までドイツ医学の影響を受け発展してきた。ドイツ語圏の耳鼻咽喉科では,現在も音声言語障害のクリニックをもっている1)。そこでは医師と言語治療士が働いている。第2次大戦後は,米国医学の影響を受け,speech pathologistという名の職種が注目され,わが国でも言語治療士(ST)という名で養成された。米国の場合,修士の教育を受けており,指導者クラスは博士課程を経てPh.D.の資格をもつ人が多い。わが国の昨年の第1回言語聴覚士の国家試験で約4,000人が国家資格を得た。そのため名前は今後,STから言語聴覚士と呼ばれるようになろう。その合格者の教育のバックグラウンドは様々であるが,わが国の言語障害の治療は大きく前進することが期待される。現時点では,国立大学病院や国立病院に,正式のポストを用意する動きがみえないことが気がかりである。言語治療の保険点数の改定が鍵である。これまではあまりにも低く設定されている。言語聴覚士にどのような患者を依頼するか認識が必要である。筆者が以前に勤務していた大学病院で,内科の研修医より言語障害の診断と訓練を依頼された患者があった。構音が悪いのが紹介された理由であった。原因は入れ歯をしていないことによるものに過ぎなかった。これは内言語障害や末梢あるいは中枢レベルの構音についての基本的な知識をもっていれば何でもないことである。子供の言語発達の遅れが難聴に基づくものではないかと疑われて紹介され,精査の結果,知的な発達障害のためである例は現在も多い。これも,知的障害では言語だけでなく他の発達のレベルに遅れが生じるものであり,簡単な親への質問紙法で多くの例では診断がつく。
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