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はじめに
顔面神経管(fallopian canal:以下,顔神管と略)内の神経浮腫による絞扼性障害が病態とされるベル麻痺においては,顔面神経を絞扼から解放することが治療の主目的となる。そのためには神経浮腫を改善させるか,神経周囲の骨壁を除去するかの2法が考えられるが,後者を実現するために行われるのが顔面神経減荷術(以下,減荷術と略)である。
本法は1930年代に始まり1970〜1980年代にかけて多く行われたが1),一方ではステロイド(プレドニゾロン)が治療の第1選択であるとする意見2)もあり,特に1979年に大量ステロイド療法による驚異的な高治癒率が報告3)されて以来,治療の主体はステロイドに移り減荷術が行われる機会は少なくなった。とは言え減荷術は全く行われないわけではなく,いろいろな施設で症例により今も行われていると同時にその意義は議論の的となっている。
筆者らも1988年から大量ステロイド療法を導入し,極めて高い治癒率を得てきたが4),それでも100%ではなく,ステロイドによる保存療法では治癒せしめることのできない症例も存在し,中には長い間改善の徴候がみられない例もある。また,大量ステロイド療法を受けなかった症例では,改善しない例を少なからず経験している。これら予後不良と予想される例に対する次の治療として,本邦では多くの顔面神経の専門家が減荷術を有用な方法と考え5〜8),また筆者も少ないながら手術を行ってきた9)。本稿では上記の点をふまえた顔面神経減荷術の自験例も加え,ベル麻痺に対する手術治療について論ずることとする。なお,手術療法としては減荷術のほかに陳旧例に対する神経移植や筋移植なども含まれるが,ここでは減荷術のみを取り上げることとする。
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