鏡下咡語
開業五周年に想う
二木 隆
1
1二木耳鼻咽喉科医院めまいクリニック
pp.236-237
発行日 1996年3月20日
Published Date 1996/3/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901332
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■そうだ。ウォーターフロントだ!
都内某私大の教授選考の追い込みも,自校出身者有利との情報であり,永年望みつづけた教室主宰の念願も放棄せざるを得なくなり,「桐一葉落ちて天下の…」の心境になったのは平成元年に入ってからであった。知人の老社長が「やはり先生,開業も私達からみれば商売だから,方角や時期など,一度易にみてもらっては」と勧められて,神田の古ぼけた易断の片目の爺さんにみてもらった。八卦では,方角は辰巳(たつみ=東南〉すなわち江東,江戸川,市川方面,時期は平成2年5月がよいという。選考は延びても今年中であり来年まで待てないと心中思いながら,4万円を払って大学にもどった。大学同期で既に開業歴の長いY君に,開業の旨告げると,早速薬局経営者を伴って上京してくれた。
この辣腕の薬剤師は手兵を動かしてマーケットリサーチをしてくれるというが,気の早いのが欠点で,「先生どこにするのか,決めてくれ」とたたみ込んでの催促。当方も苦しまぎれに朝読んだ新聞の見出しを想い出して「そうだ,ウォーターフロントだ!」と叫んだものであった。「じゃあ,葛西ですね?」と来たから「そうだ,その辺だ」ということになり,地下鉄東西線葛西駅から3分の角地のビルの一階40坪を借りる運びとなった。名刺をさし出すと,大家はこういう人に貸したかったと喜んで,保証金を500万円安くしてくれるというオマケまでついた。
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