鏡下咡語
恩師故高原滋夫先生をお偲びして
宮本 久雄
pp.520-521
発行日 1995年6月20日
Published Date 1995/6/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411901152
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昭和二十一年十二月二十四日,この日はクリスマスイブとは申せそれは名のみで,先の戦いで殆んど焦土と化した岡山の街並みは無惨な姿をそのまま止めている頃の事でした。
十歳になったばかりの少女の壊疽性上顎炎の手術が高原先生御執刀の下で行われました。何事もなく進行していった手術でしたが,愈々最終段階に於て何時もの如く創面の清掃の目的でもって介助に付いていた婦長より手渡された注射器よりオキシドールが注入された瞬間歴史的大異変が起こったのであります。大量の酸素ガスが気泡状に発生するものと思っていたのに,実はそうはならず一瞬にして創面及び其処に流れ出た血液が黒褐色に変わって行ったのです。手術に直接関係していた私達は勿論の事,周囲の者もその周章は一通りではありませんでした。先生が教授として広島の地よりお帰りになられてまだ一ケ月も経っていない頃の事でした。実は私,その患者の受持医だったのです。
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