追悼
恩師林道倫先生を偲ぶ
富井 通雄
1
1県立岡山病院
pp.801
発行日 1973年7月15日
Published Date 1973/7/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1405202056
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慈父のような温容をそなえた,偉大な恩師林道倫先生の端麗なご容姿はもはやこの世にない。しかし今でもなお,先生のお言葉が泉下から聞こえてくる思いがする。「ただ諸君は自己の冷静な批判力によって,時流に迎合せず阿附せず,長いものにまかれることなく,他人の思想の無条件Epigoneとなることなく,自己の思想目標を樹立しなければならぬ。しかも一旦これを樹立した以上,これを護持し堅持するの気魄と操持とを持たなければならぬ。と同時に墨守に流れ固陋に堕してはならない。移るべきには移る位な広き心もまた持ちたきものである。この操持と自由のあるところ,人間の尊厳があり思想の尊厳があり学問の尊厳がある。」——岡山大学の初代学長として昭和24年7月28日の第1回入学生に対して残された告辞の中の言葉である。
憶えば,先生はこれを自らの信条として,生涯を通して身をもって示された。私が初めて先生に接したのは,まだ岡山医科大学の時代で,敗戦後の学生運動が先生の手によって収拾された直後であった。当時は,多くの人人が時流に迎合しているなかで,先生はひとり,自らの所信にあくまでも忠実な態度を示された。当時の学長に代って,学生たちの気勢に押されて腰枠けとなった教授陣の楯となって,敢然として困難な事態に対処された。
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