鏡下咡語
ホスピスより—副鼻腔癌
戸塚 元吉
1
1桜町病院
pp.340-342
発行日 1994年4月20日
Published Date 1994/4/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411900908
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ある進行癌(第1例)
眼球が消えてしまった。前回のCT画面には眼窩内に充満した腫瘍組織の中に強膜が見えていたのに,今回は腫瘍組織だけで眼球の輪郭は跡形もなく消失して異様に盛り上がった腫瘍組織の上に眼瞼の皮膚がかぶさっている。癌は副鼻腔が好発部位である。上顎洞または篩骨洞から進展した腫瘍組織が,眼窩に進展して眼球を侵蝕したといえば十分にあり得る過程であろうが,かつて私の勤めていた都心の病院の臨床では,このような経過は見られなかった。手遅れになる前に手術,放射線,抗癌剤の3つの治療手段を駆使すれば,眼窩への進展は一応は防ぐことができたこと,すでに進展が始まっている症例では,根治性の乏しい場合にも痛みの防止のために眼球を含めた眼窩内容除去術が行われるので,眼球侵蝕という事態にはならなかったこと,上顎癌は頭蓋腔にも進展し易いので,中枢症状が死因になることが多いこと,などがその理由であった。
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