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I.疾患概念が確立するまでの歴史 1909年にRuttin1)が報告した聴覚症状を伴わない急性の一側性前庭機能廃絶例が前庭神経炎の最初の臨床例とされている。その後Nylén (1924)2)が同様な症例をvestibular neuritisとして報告している。1950年にはスカンジナビアで流行性に発生しためまいの症例がneurolabyrinthitis epide—micaあるいはvertigo epidemicaとして発表3)されている。また英国では1952年にacute labyrin—thitisとして,流行性に出現しためまい症例の報告4)がある。さらにinfluenzal vertigo, acuteepidemic labyrinthitisとして流行性のめまい症例が報告されている。しかしこれらの流行性に発生した一連のめまい症例には迷路の障害の所見がないものも含まれており,現在の前庭神経炎の範疇に含まれるものか否か詳細は不明である。前庭神経炎としての疾患概念がほぼ確立したのは,Hallpike (1949)5),Dix & Hallpike (1952)6)が100例の臨床例を検討してvestibular neuronitisとして報告した時である。
Dix & Hallpikeの原著で記載された前庭神経炎の症例は,単一の疾患でなく複数の疾患が含まれている可能性も現在では考えられている。原著の一部を以下に簡略に紹介する。100例中男が57例,女が43例で,30歳から50歳までが主要な年齢分布となっている。蝸牛症状は伴わないが,めまい発作の様式は多彩である。多発性あるいは単発性の回転性めまい発作から浮動感(原著では"feeling top heavy"あるいは"off-balance"と記載されている)までが含まれている。本疾患の病因としては感染が重要な役割を果たしていると想定しており,50例中16例に上顎洞炎,4例に歯の病巣,扁桃炎が2例,他のなんらかの感染を13例に認めたと報告している。温度眼振検査では47例で両側,53例で一側に障害が同定されている。galvanic検査を施行した16例中13例で異常データが得られ,前庭神経,前庭神経節細胞から前庭神経核まで含めた病変の存在を報告している。
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