鏡下咡語
兆民の病気について
佐藤 武男
1
1大阪府立成人病センター
pp.66-67
発行日 1988年1月20日
Published Date 1988/1/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411200099
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明治の自由民権運動の理論的指導老,中江兆民の病気は,ある書物によれば喉頭癌,また他の書物によれば食道癌となっていて一定していない。1986年に出版された立川昭二氏の『明治医事往来』(新潮社)によれば,死因は食道癌となっていた。しかし彼の症状と経過からみて納得しかねたので,引用された原著を探し出して読んでみた。
その論文は明治35年(1902年)発行の日本消化機病学会雑誌第1巻第3号に掲載されており,岡田和一郎教授が『一二珍奇ナル食道癌ニ就テ』と題して報告している。その内容は3例の症例について,当時としては珍奇な食道癌として経過を報告したものであるが,この3症例は現在の医学常識からみると,いずれも食道癌ではなくて下咽頭癌に属するもので,第3例目に兆民の病歴が記載されている。これらの3例とも現在では特別珍奇なものではない。
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