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神経耳科にも精通した神経内科医による貴重な臨床書
本書は,城倉 健先生が,めまいの診療を一般医家向けにわかりやすく解説した臨床的な教科書である。城倉先生は,神経内科医でありながら,神経耳科の勉強や研究も十分に積み重ねられた,わが国というよりも世界的にも貴重な医師である。耳鼻咽喉科医でめまい・平衡障害を専門とする医師は少数派ながら存在するが,末しょう性めまいには詳しくても中枢性めまいとなると途端に臨床経験が不十分で自信をもっていないことが多い。その点,常に脳卒中を救急患者として実際に診ている神経内科医が,神経耳科にも精通していれば,最強のめまい診療医といえる。その城倉先生が満を持して,めまいの診かたをフローチャートや動画を用いて教えてくれている,このうえない貴重な臨床書なのである。
脳神経外科におけるめまい診療において,最も頻度が高く,理解を深めておかなければならないのは,本書でも触れられているが,頸筋の異常緊張による頸性めまいである。緊張型頭痛(筋収縮性頭痛)を伴いやすく,その原因としてストレスが強調されやすいが,実際には姿勢の悪さに起因することがほとんどである。背筋の通った,気持ちの良い姿勢の青少年を見る機会が減ってしまった昨今,頸筋の異常緊張による頭痛やめまいは本当に多い。診療の際には,患者の背中に回って両肩の凝りの程度をじかに触って確認し,ツボでいうところの「風池」の圧痛点が陽性であれば,首凝りが強いと判断してよい。また,本書では,頭部回旋に伴うめまい(椎骨脳底動脈循環不全,vertebrobasilar insufficiency:VBI)として,bow hunter's strokeとPowers' syndromeが解説されているが,これに補うとすれば,頸椎症性(spondylotic)VBIがあり,椎骨動脈を圧迫している骨棘(lateral spur)を削除する手術の対象となることがある。Bow hunter's strokeが患側と反対側に頭部回旋させるときにめまいや気が遠くなることが多いのに対して,頸椎症性VBIは患側に回旋時に起こりやすい。ともに対側の椎骨動脈は低形成か閉塞しており,両側の後交通動脈の発達が不良であることがほとんどである。また,私が専門的に手術している聴神経腫瘍では,めまいやふらつきなどの前庭神経症状は,初発症状としては約15%,手術する時点では約45%のケースで認められる症状である。聴力低下とともに認められることがほとんどであるため,メニエール病や突発性難聴と誤診されて発見が遅れることも決して珍しくない。ぜひ,若い患者の耳鳴り・難聴を伴うめまいやふらつきに対しては,MRIによる評価をしてもらうことを切望する。
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