特集 生検の進歩
II 生検に応用できる技術
5 癌遺伝子—2 肝癌と癌遺伝子
樋野 興夫
1
Okio HINO
1
1(財)癌研究会癌研究所病理部
pp.1383-1388
発行日 1987年10月30日
Published Date 1987/10/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1542913496
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はじめに
本特集における私に与えられたテーマは,「肝細胞癌(以下,肝癌)の生検材料を用いた癌遣伝子のDNAプローブによる分子生物学的検索」であろうと考える.しかし,生検という少量の材料の制約性と,診断学への有用性という観点から,「肝癌と癌遺伝子」という研究は,あまり実際的ではないものと考えられる.そこで,本稿では,技術の応用性の面をかんがみ,私自身の研究テーマである「B型肝炎ウイルス(HBV)によるヒト肝癌発生機構の分子病理学的研究」の一環として実際に行った,肝生検材料を用いたHBV DNAプローブによる分子生物学的手法のいくつかを述べてみたい.
そもそも,肝癌を起こす原因は,疫学的にいくつか知られている.例えば,カビ毒の一種であるアフラトキシン(化学発癌),戦時中に使用された造影剤であるトロトラスト(放射線発癌),肝炎ウイルス(B型肝炎,現在不明であるが非A非B肝炎;ウイルス発癌)とまったく異なる因子によって同じような肝癌が発生するのである.癌発生の道程は「分け登る麓の道は多けれど同じ高嶺の月を見るかな」といったところである.最近,この多段階発癌の概念が,いわゆる癌遺伝子の発見によって遺伝子レベルで具体的に考えられるようになった.これは,癌研究における大きな進歩である.
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