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Ⅰ.概説
耳科手術で起こしたくない副損傷としては,顔面神経の損傷による顔面麻痺,半規管や内耳窓の損傷に伴う内耳障害(めまい,耳鳴り,感音難聴)が代表的なものと考えられるが,骨削開の途中で天蓋から髄液が出るという状況も稀に生じることがある。これには,①全く予想外に天蓋を損傷してしまった,いわゆる過失によって生じた場合と,②術前の画像検査などで既に天蓋の破壊が明らかにわかっており,手術操作によって硬膜が損傷し髄液が漏出する可能性があることをあらかじめ覚悟している状態で生じた場合の2つのパターンがあると考えられる。どちらも起きてほしくない事態ではあるが,パニックに陥るのは当然ながら過失によって生じたときであろう。頭蓋底手術に慣れているような術者であっても,耳科手術で髄液が流れ出てくるのは目にしたくないだろうし,ましてや,経験の浅い術者(副損傷を生じる術者のほとんどがそうだと思われる)にとっては一大事であり,頭の中が真っ白になってもおかしくはない状況である。しかしながら,起こしてしまったものについては仕方がないので(後で十分反省する必要はあるが),その状況をいかに修復するかを,まずは落ち着いて考えるのが先決である。助手がいない手術の場合には,とりあえず手術室にほかの(落ち着いて判断ができる自分以外の)医師にきてもらい,意見を求めることも重要であると思われる。
さて,不幸にして「側頭骨天蓋硬膜から髄液が漏れた」場合,その対処法を決める際に考慮するべき点としては,①全身状態(血圧や呼吸)の変化,②損傷された硬膜の欠損部の大きさ,③損傷の深さ(クモ膜や側頭葉の損傷の程度),④手術部位の感染の有無(真珠腫の手術中などに生じたのか,感染のない腫瘍の手術中に生じたのか),⑤術前の聴力(中耳腔,もしくは耳管鼓室孔に髄液流出を止めるため脂肪などを充塡すれば,伝音難聴を生じる),⑥術後の経過観察の容易さ(遠方からの患者の場合,退院後の経過観察や急変時の対応に困ることがある)などが挙げられる。以下に,それぞれ想定される状態への対処法を述べる。
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