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Ⅰ.はじめに
デジタル補聴器や人工内耳の発達には目覚ましいものがあり,個々の症例の聴力像に応じてより良い補聴効果が提供できるようになってきた。しかし低音部に残存聴力を有するが,高音域の聴取能がきわめて悪い,いわゆる高音急墜あるいは漸傾型の聴力像を呈する難聴患者に対しては従来型の補聴器ではフィッティングが困難であることが多い。周波数変換型あるいは周波数圧縮型補聴器を使用しても実際には患者の望む補聴効果,語音弁別能の改善はなかなか得られないことも多い。また低音域の聴力が残存しているために従来の人工内耳の適応には含まれない。現在の人工内耳の適応は,全周波数が90dB以上の重度難聴患者に限られており,高音急墜型あるいは高音漸傾型の聴力を示す難聴患者は適応外となっている。近年,そのような難聴患者に対して,低音部は音響刺激で,高音部は電気刺激で音を送り込む「残存聴力活用型人工内耳(electric acoustic stimulation:EAS)」が開発され注目を集めている。新しく登場した残存聴力活用型人工内耳は音刺激と電気刺激を併用しても脳の聴覚中枢で統合できることを示した画期的な技術であり,人工内耳の適応や可能性を広げるものとして注目されている(図1,2)。残存聴力活用型人工内耳はヨーロッパではその有用性が認められCEマークを取得し,すでに臨床で用いられており,米国FDAでも現在治験が進められている。わが国でも2010年8月に厚生労働省から「残存聴力活用型人工内耳挿入術」が高度医療(第3項先進医療)として承認を受けて臨床研究が開始されている。当施設では現時点(2011年4月)までに14例(うち高度医療5例)の経験を重ねており,現在日本語における有効性を検証しているが,本稿では自験例を紹介するとともに,文献的考察も含めて解説を加えたい。
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