特集 耳鼻咽喉科感染症の完全マスター
Ⅱ.病原体をマスターする
2.真菌症
2)アスペルギルス
市村 恵一
1
1自治医科大学耳鼻咽喉科
pp.141-146
発行日 2011年4月30日
Published Date 2011/4/30
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411101833
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Ⅰ 一般的特徴:疫学,分類
真菌の種類は5万を超えるが,そのうちで人類に病原性を有する菌種は数百種とも50~75種ともいわれ,そのうちの数十種のみで全体の9割の疾患を引き起こす1)。空気中浮遊真菌の約88%は糸状菌であり,その60%以上をペニシリウム,アスペルギルス,クラドスポリウムが占めるという。また山下2)によれば空中真菌叢の主要構成要素である上記3種は外耳道,鼻腔,上顎洞から高頻度に分離される。
アスペルギルス(Aspergillus)は,ごく普通にみられる不完全菌の一群である。その菌糸は有隔性2分岐性(45度で分岐するのが特徴)であり,これでほかの菌種と鑑別できる。銀染色でよく染まる。このうち一部のものが,麹として味噌や醤油,日本酒を作るために用いられてきたことからコウジカビの名がついた。アスペルギルス属の胞子は環境中に広く存在し,ヒトは毎日吸入しているが,免疫に障害のある例では体内での増殖が原因の日和見感染症を起こし,アスペルギルス症と呼ばれる。アスペルギルス属には170種以上の菌種が知られるが,一般的な原因菌はAspergillus fumigatusであり,頻度は低いがA. flavus,A. niger,A. terreusでも疾患を発生することがある。至適繁殖条件は,①湿度が85%以上,②温度が20~30℃,③ある程度の栄養源(有機物)の存在,④酸素の存在である。A. fumigatusはほかの菌種と異なり,ヒトの体温付近でよく繁殖するために発症頻度も高いと考えられている。
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