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Ⅰ.はじめに
昨年,ハーバード大学Schuknecht教授の世界的名著である『Pathology of the Ear』の第3版が,Merchant教授とNadol教授によって出版されました。初版と第2版はSchuknecht教授の単著で出版されています。初版は1974年に出版されました。第2版を10年後の1984年に出版したい意向でしたが,多忙なために実現できず,教授退官(1987年)後の1993年に出版されました。しかし第2版出版3年後の1996年にSchuknecht教授は逝去されました。ヒト側頭骨病理の研究は,分子生物学や遺伝子学の進歩による診断や治療法の開発が進んでも,病態の解明にはもちろん,動物モデルの妥当性や,治療法の評価などに不可欠です。このため,近年の目覚しい診断や治療法の進歩や,人工内耳などの新しい手術法の開発が急速に進み,時代に即した内容に改訂すべきと考え,今回の出版になったとのことです。本版には多くの新知見が加えられ,美しいカラー写真に目を見張ります。今回新たに『種々の原因で生ずる内耳の変性様式』が一つの章をなし,同じような病変が種々の原因で起こりうる知見は,臨床において病態を考えるうえで大変参考になると思います。また耳硬化症,メニエール病,慢性中耳炎などに外科的治療が行われた症例や人工内耳装着耳の病理所見も興味を引きます。人工内耳の標本には,陳旧性の症例だけではなく,電極挿入後10週の貴重な所見も含まれています。これら手術症例の病理所見は,耳手術を行う者にとって,より繊細かつ慎重な手術操作の必要性を意識させるのではないかと思います。
3年程前にMerchant教授から第3版の出版計画の知らせが届き,珍しい症例標本の提供依頼を受けました。1982年にSchuknecht教授のresearch fellowとしてお世話になった私は,今回の依頼に多少とも応えることができたことを嬉しく思っています。カラー写真をみていると,当時のことが懐かしく思い出されます。そのいくつかについて触れたいと思います。
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