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Ⅰ はじめに
1994年,わが国で多チャンネル式人工内耳の健康保険適用が受けられるようになって以来,人工内耳手術は一般的な医療として多くの医療施設で施行されるようになってきた。1998年4月には,日本耳鼻咽喉科学会の人工内耳適応基準委員会により,最初の人工内耳適応基準が作成された1)。この適応基準の中で規定されている成人の人工内耳適応は,聴力および補聴器の装用効果に関して,『原則として両側とも90デシベル以上の高度難聴者で,かつ補聴器の装用効果の少ないもの』とされており,また,『通常の人工内耳装用者の語音弁別成績を参考にして慎重に判定することが望ましい(具体的には子音弁別テスト,57語表の単音節検査,単語や文章復唱テストなどの成績を参考にする)』とある。さらに,成人例の手術禁忌としては,『画像(CT・MRI)で蝸牛に人工内耳が挿入できるスペースが確認できない場合。ただし奇形や骨化は必ずしも禁忌とはならない』とされている。加えて,この適応基準には付記があり,『1.プロモントリー・テストの成績は参考資料にとどめる』ことが示されている。これらの中に記載されているように,少なくとも人工内耳の手術適応判断の中では,①聴力検査,②語音聴力検査,③補聴器装用検査,④CTおよびMRIの画像検査,⑤プロモントリーテストなどの電気生理学的検査の5種の検査が必要となることが明示されている。
本稿では,他稿との重複を避けるために,人工内耳に比較的特異的な電気生理学的検査のうち,広く行われているものを中心に解説を行い,その他の検査については一部のみを紹介するにとどめる。また,現在わが国では,人工内耳メーカーとしてコクレア社,メドエル社,アドバンストバイオニクスの3社の製品が使用可能であるが,それぞれの企業が類似の概念に対して,独自な用語を用いている場合も少なくない。今回は,その中でも日本コクレア社の機種で用いられている用語と概念を中心に解説した。今後の学術文献などでの使用を前提に考えると,こうした用語についても一般概念として使用できる邦訳用語が定められることが望ましい。
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