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Ⅰ 扁桃周囲膿瘍の成因と病態
扁桃周囲膿瘍は主として急性扁桃炎に続発して生じ,扁桃周囲間隙に炎症が波及して起こる。扁桃周囲間隙とは,側方を上咽頭収縮筋,前方を口蓋咽頭筋,上方を軟口蓋,下方を咽頭収縮筋から梨状窩に向かう粗な結合織で囲まれた部位で,正常な状態ではCT画像などにより同定することは困難な潜在性の間隙である1)。扁桃被膜は上2/3では明瞭で筋層との結合も緩やかであるが,下方1/3では筋層との結合が強く,被膜構造は不明瞭となる2)。そのため扁桃周囲膿瘍は上極側に生じやすい。炎症が扁桃から周囲に至る経路としては,扁桃炎が扁桃陰窩を超えて被膜外に及び,扁桃周囲炎から膿瘍形成に至ると考えられる。そして,さらに咽頭収縮筋を超えて炎症が広がると咽後間隙や副咽頭間隙に膿瘍を形成する。ただ,小児では扁桃被膜が成人に比べて強固であり,炎症が周囲に波及することは稀である(図1)。
起炎菌はさまざまであるが,化膿性レンサ球菌,黄色ブドウ球菌,インフルエンザ菌などの好気性菌のほか,嫌気性菌が重要である3~5)。バクテロイデス属,ペプトストレプトコッカス属などの検出率が高い。例えば,第3回感染症サーベイランスの結果では扁桃周囲膿瘍を穿刺して得られた膿汁からは好気性が約4割検出され,うちレンサ球菌属の検出率30%,ヘモフィールス属が6%であるのに対し,嫌気性菌の検出率は約6割で,ペプトストレプトコッカス属が21%,プレボテラ属が20%,フソバクテリウム属が14%の順であったと報告されている6)。また西元ら7)は彼らの施設で扁桃周囲膿瘍の即時扁桃摘出術を行った94例中39例から嫌気性菌が検出され,内訳はバクテロイデス属,ペプトストレプトコッカス属,プレボテラ属,フソベクテリウム属などであったと報告している。
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