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Ⅰ.はじめに
わが国の慢性副鼻腔炎に対する外科的治療の主流は,20世紀を通じてCaldwell-Luc法や和辻-Denker法などのいわゆる『根治手術』であったが,1990年代を通じて,大学病院も含めて地域の主だった施設で内視鏡下鼻内副鼻腔手術(endoscopic sinus surgery:ESS)に変わっていった。この時期は,慢性副鼻腔炎に対するマクロライドの少量長期投与が広く普及していった10年でもあり,慢性副鼻腔炎の治療にとって外科的治療と保存的治療の『新しい大黒柱』が2本登場した時期であった。
当科において,内視鏡手術が根治手術にとってかわっていく様子を示した資料が1997年の当科の教室誌(現,同門会誌)に残っている(図1)。それによると,1994(平成6)年には全体(年間総数71例中)の54%であったESSが,1995(平成7)年の(年間総数70例中)53%を経て,1996(平成8)年には(年間総数90例中)79%となり,その後はほぼ全例ESSとなり『ESS化』は完了している。当科が全国的に特に早い時期にESSを導入したわけではなく,ほぼ標準的な時期であると考えている。ESSの定着を1997年頃と考えると,やっと10年が経過した。その間,ESSは慢性副鼻腔炎の外科的治療として有効性が広く認められ,わが国や欧米では標準的な治療法として定着している。さらに,ESSは当初大学病院などの大規模病院で行われ始めたが,今やベッド数19床以下の有床診療所でも,十分な修練を積んだ耳鼻咽喉科専門医であれば,安全でかつ効果が十分期待しうる手術となっている。さらに進んで,適応を十分検討のうえ,day surgeryやoffice surgeryとして,日帰りや短期入院でも可能な耳鼻咽喉科手術の主要なものの1つともなっている。
こうした近年の動向を考えると,本稿のテーマである『地域医療との共生―術後処置の依頼と紹介』に対する回答として,『手術は大規模病院で,術後の処置はすべて地域の耳鼻咽喉科開業医へ』というのは必ずしも正しくない。つまり,鼻内副鼻腔手術の分野における『地域医療との共生―術後処置の依頼と紹介』を考えるとき,重要なことは医療機関の規模の大小による役割分担よりも,鼻内内視鏡手術に対する『認識の共有』とそれに基づく『術後処置の依頼と紹介』である。そこで,本稿では,良好な『術後処置の依頼と紹介』関係を築くために不可欠な鼻内内視鏡手術に対する『認識の共有』について以下の3つの観点から述べることとする。
Ⅱ.慢性副鼻腔炎の病態とESSのコンセプト
Ⅲ.ESSによる副鼻腔手術の適応拡大
Ⅳ.副鼻腔炎病態の多様化と難治例の問題
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