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Ⅰ はじめに
1953年,英国ケンブリッジにおいてWatson & CrickによりDNAの2重螺旋構造が解明されたのを契機として,分子生物学はめざましい発展を遂げることになった。そしてこの発展の基礎となったのが1980年代半ばに開発されたpolymerase chain reaction(PCR)の登場で,これを利用して数多くの新しい技法が導入され,以来分子生物学の研究は飛躍的な進歩を遂げてきた。最近ではこの領域はまさに日進月歩で,毎日のごとく新しい研究成果が種々の雑誌に発表されているのが現状である。特に2001年にヒトゲノムがほぼ解読されたのを受けて,今後もさらなる発展が期待されるところとなっている。耳鼻咽喉科領域も例外ではなく,難聴遺伝子の同定,単離を始めとして,分子生物学的手法を利用した研究による種々の成果が報告されるようになってきた。
筆者は1993年から1997年までWatson & Crickが研究を行った英国ケンブリッジに滞在した際に(もっともWatson & Crickとは全く異なる研究施設ではあるが),くしくも聴神経腫瘍組織を材料とした分子生物学的研究を行う機会を得た。最近の分子生物学のすさまじいまでの発展からみると,もうずいぶん古い時代の研究なので,本稿のテーマであるCurrent Articleには少々そぐわない内容とは思われるものの,筆者らの研究以来このテーマに関連した研究成果がやや乏しいようにも見受けられるので,ここにあえて当時筆者らが行った研究を改めて報告さていただくことにした。
また本稿における研究に関連して,この領域における分子生物学の一般的知識の解説も一部合わせて行いたいと思う。
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