書評
形態耳科学 Morphology in Otology
曽田 豊二
1
1福岡大学
pp.636
発行日 2006年8月20日
Published Date 2006/8/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1411100729
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「形態耳科学」序文冒頭に「耳という器官の形態的な美しさ,神秘さに惹かれ私は耳科学に興味を持つようになった」と著者はその思いを述べている。この研究の契機となった恩師の切替一郎先生,Schuknecht先生との出会いやそこから生まれた多彩な学問的な成果をわかりやすくていねいに示した本書は,またこの国のこの分野の研究の流れも自然に理解できるように仕組まれており読むと楽しみが起こる。
本書は「耳についての概説」,「外耳」,「中耳」,「内耳」そして「内耳疾患」など章をたてて構成されている。そしてそのおのおのの章のなかで著者は新たな視点からの研究課題をそれぞれ明示して自前の組織標本写真と明快な論旨でこれらをまとめているので,この点からみれば本書は著者の研究史といえる。そしてまた新しい型の耳科学の教科書ともいえよう。また載せられている組織写真はいずれも美しい。このことは「研究は臨床との関連において行うこと。形態学ではとに角綺麗でなければならない」というSchuknecht教授の持論と著者の関係する研究室の力強さを知らされる思いがする。そして著者はつねにこれら研究の成果を“この40年間一耳鼻咽喉科医師が臨床の傍ら”で行ってきたものという姿勢を貫いていることが,また本書を読み応えあるものにしている。もちろんこの美しい写真の多くは著者の手がけた研究の過程で収集されたものであり,そしてその解説も本文もその間に生まれた透徹した考えが十分示されているうえに,人々との交流や折々の情況も加わり興味ぶかく読みやすい。
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