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嗅覚障害は,大きく呼吸性,末梢神経性,中枢性障害の3つに分類できる。各種の嗅覚障害をそれぞれ3つに分類して図示した(図1)。これらの中で,現在,確実に改善が期待できるのは呼吸性嗅覚障害であり,その大部分を占める慢性副鼻腔炎に対しては,保存的および手術的治療が存在する。
これまで当科では,慢性副鼻腔炎に伴う嗅覚障害における内視鏡下鼻内手術において,嗅裂部の拡大と嗅粘膜への気流の増加を狙って中鼻甲介の外側への変位を試みてきた。しかし,中鼻甲介の外側への変位を維持することは容易ではない。甲介を外側に変位させるために,甲介骨をあえて骨折することもある。その結果,予期しない篩板の損傷や,広く開放した中鼻道の再狭窄化,中・下鼻甲介の癒着が起こり(図2),副鼻腔炎の再発や,改善した嗅覚障害が術後3か月を経過する頃から再び悪化してくる例を経験するようになった。
このような問題を解決するために,すなわち初回治療で開放した中鼻道,篩骨蜂巣を狭小化させないで,気流を嗅裂部に導入することを目的として,中鼻甲介に小さい穴(窓)を造設する中鼻甲介開窓術(middle turbinate fenestration method:MTFM)を考案した(図3)。これにより,従来型の手術で術後3か月頃から嗅覚機能が悪化する症例の減少傾向が示された(図4)。今後,さらに症例を重ねて検証していく方針である。今回,MTFMが有効であった1例を供覧する。
症例:40歳,男性
主訴:嗅覚脱失
現病歴:2000年(5年前)から,嗅覚減退を自覚していたが放置していた。2年ほど前,近くの耳鼻科を受診し,ステロイド点鼻療法を開始したが軽快せず,点鼻後のみニオイがわかる状態で当科を受診した。現在,cough variant athmaで内科通院中であるほか,特記すべきことはない。
現症:前鼻鏡検査で両中鼻道にポリープが多発し,嗅裂部は閉鎖していた。CT画像では,両上顎洞,篩骨洞にび慢性の陰影が存在した。
基準嗅力検査:T&Tオルファクトメーターで,検知閾値/認知閾値=5.8/5.8であった(図5)。
静脈性嗅覚検査:潜伏時間/持続時間=25秒/50秒であった。
経過:内視鏡下に多発するポリープは手術支援機器を利用して切除し,篩骨洞,上顎洞を型のごとく開放後,中鼻甲介の中ほどに鉗子で,直径約1cm大の円形の穴を形成し,同部から上鼻甲介がみえるように開窓した(図6)。術後10日目の鼻内所見を示す(図7)。術後約3か月後の嗅覚は平均認知域値で2.2に改善した(図5)。
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