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Ⅰ はじめに
鼻出血は耳鼻咽喉科臨床医の遭遇する最もポピュラーな症状の1つである。しかも一般的には,患者や救急医療に携わる方々の見方からすると緊急性を要する症状の1つと考えられている。
しかし,実際にそのほとんどが初歩的な処置により対応できることは,多くの経験ある耳鼻咽喉科臨床医の方はご存知であろう。その理由は後述するが,耳鼻咽喉科当直を担当していると,よく「鼻出血があり止まらない。かかってもよいか?」という問い合わせがあり,夜中に遠くより,しかも時には救急車を利用して来院されるが到着時にはもう止血していたということも少なからず経験する。人間は血を見ると慌ててしまうのは仕方がないことであり,本人の気が動転してしまうことは無理もないことかもしれない。しかし,周りの人や一次救急に携わる方々にはもう少し冷静に対応していただきたい。私たち耳鼻咽喉科専門医は,鼻出血の多くは初歩的な処置により,その多くが対処できるということをもっと一般の人にわかりやすいように説明すべきである。
統計をとったことはないが,医療経済学的にみても初歩的な処置により対応可能な鼻出血患者が,医療機関を受診する(しかも時間外診療で,時には救急車を利用して)医療費は年間で換算するとかなりのものになると推測される。
筆者が当直の場合,鼻出血を主訴とする患者からの問い合わせに対してはまず,本人かご家族に電話口に出ていただき,「鼻出血ですぐに致命的になることはほとんどないのでまず落ち着く」ことと,「簡単な処置の仕方」をお話し約10分間は様子をみていただき,それでも無効な場合は受診していただくことにしている。これだけで多くの場合,救急隊などの出動機会を抑えることができる。おそらく血を見て興奮して上がった血圧も下降し,止血効果を上げているのであろう。正しい応急処置を施しても止まらないものはもちろん救急対応する必要があるが,一度は止血しても繰り返すような場合に限り,諸検査の可能な日中に耳鼻咽喉科専門医を受診していただき精査を進めることになろう。ちなみに,死因別死亡数の統計を調べても鼻出血が死因のものは見つからない。
鼻出血については多くの成書,文献があり,いずれにもその原因1),解剖学的特質2),代表的止血法3)などについて詳しく記載してある。ここでは,それらを簡潔に整理する程度にとどめたい。細かい点については詳書を参考にしていただきたい。難治性疾患への対応ということであるが,当科で実際に行っている処置の具体的方法や止血困難な症例に対して効を奏した止血法などについて紹介する。
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