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Ⅰ.はじめに
真珠腫を伴わない慢性中耳炎例の大部分は乳突削開の必要性がないのに対し,真珠腫性中耳炎例の大多数はその病巣郭清に乳突削開術を要する。真珠腫母膜の完全除去が要求されるためである。
乳突削開術は,外耳道後壁の処理方法によって大きく2つに分類される。後壁削除型(canal wall down法)と後壁保存型(canal wall up法)である。
前者は,真珠腫の合併症回避を第一義とした時代の根治手術的術式の流れをくむ手術で,しばしば削開した乳突腔を外耳道に開放するopen methodと同義に扱われる。術後の開放乳突腔内の肉芽形成や感染などをきたすと,定期的な外来局所処置を余儀なくされることになる。
一方,後者は外耳道の骨性枠組みを残したまま鼓室-乳突部の病巣を処理する術式で,intact canal wall tympanoplasty1)やcombined approach tympanoplasty2)とも呼ばれる。術後の外耳道や鼓膜が正常な形態に保持されることから,鼓室形成術を遂行するうえでも有利な術式といえる。にもかかわらず,真珠腫への後壁保存法が敬遠される理由は,術中の視野が制限されることや術後性真珠腫の危険性が過度に強調されてきたことによると思われる。
感染制御の方策や画像診断による術前評価法の進歩,さらには真珠腫病態自体の軽症化などより,単なる真珠腫の制御や合併症回避のみを大義名分とした手術的治療は必ずしも正当化されない。術後の聴力改善や外来通院処置・水浴制限からの解放など,患者側にもみえる形での手術効果が要求されることもある。また,外科手術一般の新しい時流として,真珠腫においても入院期間短縮,術後処置の簡素化などが要求される時代でもある。その意味でも,canal wall up法は真珠腫性中耳炎に対する鼓室形成術の基本手技として位置づけが高まるものと思われる。筆者らの施設では,真珠腫性中耳炎耳の大部分をcanal wall up法で処理しているが,本稿では後天性真珠腫に対する手術の概要を解説する。
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