やさしい目で きびしい目で・30
やさしい目での対話
日山 英子
1
1西宮市立中央病院眼科
pp.1133
発行日 2002年6月15日
Published Date 2002/6/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410907800
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私たちの西宮市立中央病院では,眼疾患の末期(end-stage)の患者さんも多く来院されます。彼らは私たちにとって長い間一緒に病気と闘ってきた同胞です。多忙な外来診療中にそれを忘れることがあります。もう数年前から両眼ベーチェット病で失明された方が毎週1人でこられます。私は,つい他の仕事をしながら,「○○さん」と呼ぶと,「はい」といって入ってこられ,「今日は先生だいぶ疲れて,イヤになってるね」,「一言聞けば,先生の気持ちはすぐわかる」と。“ドキッ”である。彼らの心は鏡のごとく鋭敏です。
90歳台の緑内障末期,矯正視力0.1,視野5度以内,まっ白な乳頭,眼圧12mmHgの方がいます。「時々目の前を何かが通り過ぎるように見えます。だけど自分ひとりでは歩けません。食べ物も探せません」「何とかなりませんか」と毎月きていわれる。いったい私に何をせよといわれるのか。何もできることがないことへの無力感で返す言葉がなく,気がめいる診察です。私にできるのは同情することだけです。
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