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低侵襲の涙嚢鼻腔吻合術,すなわちdacryocys-torhinostomy(DCR)を行うためには,術者は前もって,DCRに関係する涙道およびその隣接器官の詳しい三次元的形態を把握しておかなければならない。三次元的形態といっても個人差があるので,ご遺体などを用いて手術顕微鏡下で局所解剖を行い1),個々の三次元的形態の特徴や変異を把握しておくことが重要である。できるだけ低侵襲でDCRを行うため,前涙嚢稜を温存し,至適部位に比較的小さな骨窓を作ることにより,成功に導くことができる2)。しかし,症例によっては局所の変異があるため前涙嚢稜を除去しなければならない場合がある。したがって,低侵襲DCRを前涙嚢稜を温存するDCRとするのは現時点では問題であろう。
最近,筆者らはエルビウム:YAGレーザー(Erbium:YAG laser,以下Er:YAG laser)を用いてDCRをご遺体に対して行ってみた。今回使用したEr:YAG laserは,長田電機工業(株)が現在開発中のもので試作品である(図1a)。すでに発売されているものと比較したのが表1である。Er:YAG laserは粘膜に対する影響が少なく,骨を削ることができる。パルスエネルギー150〜400mJのEr:YAG laserを直径0.5〜0.65mmのサファイアのチップ(図1b)を介して骨に照射すると,骨に含まれている水分が気化し,微小爆発を起こして骨が粉砕されることが原理である。Er:YAGlaserを用いると任意の形の骨を一塊のものとしてくり貫くことができる(図2)。DCRの骨窓を作るために,前涙嚢稜を含めた骨をEr:YAG laserで一塊のものとして取り出し,露出した涙嚢粘膜と鼻粘膜に切開を加えて粘膜弁を作り,できたrhinostomyにlacrimal stentとしてヌンチャク型シリコーンチューブやくさび型のgelfoamやspongelなどを挿入した後に涙嚢粘膜前弁と鼻粘膜前弁の縫合を行う。その後,一塊のものとして取り出した骨をEr:YAG laserで切断し,上半部と下半部に分け,前涙嚢稜を含む上半部を元の位置にもどしておくことが可能である(図3a)。図3b,3cはさらに鼻粘膜を切除し,rhinostomyの位置を示している。特に骨を接着する必要はない。もどした骨の下に土台として縫合した涙嚢粘膜と鼻粘膜の前弁があるので,骨が移動することはない。最後に皮膚縫合を行って手術を終了する。Er:YAGlaserで骨窓を作る場合,ドリル(bur)のように少しずつ骨を削る方法も可能である。また,前涙嚢稜を含む上半部の骨を一塊のものとして取り出した後に,rhinostomyを作るために下半部の骨を除去することも可能である。症例によって使い分ける。
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