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角膜疾患治療の究極の目的は,透明性の回復と形状の回復である。抗生物質の開発は細菌性感染症の治療に光明を与えた。角膜ヘルペスも,IDUに引き続きacyclovirの開発により現在では比較的容易に治療できるようになってきた。一方,いったん混濁した角膜の透明性を回復する目的で角膜移植術が行われるようになり,顕微鏡手術の導入,精密な手術器具の改良,繊細な縫合糸の開発,さらに提供角膜の保存法の改善などにより,現在ではほぼ完成された術式と言っても過言ではない。術後の拒絶反応に対しても,ステロイドのみならずcyclosporine Aなどの免疫抑制剤が開発され,より容易に治療を行うことができるようになった。このように角膜疾患の治療にあたって,さまざまな新しい手法を手に入れてきた。
角膜ジストロフィーや角膜白斑などのように角膜のみに異常を認める症例では,角膜移植術の成績は極めて良好である。しかしながら,病的な結膜を有する症例では,再び混濁が生じたりあるいは移植片の溶解が生じることを経験する。これらの症例では角膜上皮細胞の幹細胞が傷害されているために,角膜上皮欠損の治癒が遅延する。また潤滑剤としての涙液の重要性は古くから認識されていたが,近年では炎症性細胞や炎症性サイトカインの供給経路としての生理的意義が認識されてきた。角膜は血管の無い組織であるが,孤立した器官ではない。上皮細胞は輪部より供給され,種々の生物学的信号を涙液,前房水や輪部血管から受けることで,その透明性や形状が維持されている。このように,角膜,結膜および涙液を一体としたocular surfaceとしてとらえることにより,多くの角膜疾患の病態の理解が深められた。
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