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1980年,英国ブライトンでの第6回ヨーロッパ眼科学会で,筆者は聖マリアンナ医大式眼科用高解像度超音波診断装置(15MHz探触子使用,メカニカルセクタースキャン)を用いて測定した,人の正常生体眼と各種緑内障眼の前房隅角角度の計測について報告した。恐らく生体人眼の隅角角度の定量的計測法としては,世界で初めての試みであったと思われる。それまでの生体眼での隅角検査は,隅角鏡を用いて観察するShafferやScheieらの方法が一般に行われてきたが,はたして彼らの記載するように,「…その分類法の何度に相当するものは隅角の角度で何度に相応する…」とは正確には言い切れなかったと考えられ,その点の説明は彼らも黙している。人眼でも動物眼でも,摘出眼で正確に角度を計測することは不可能に近かった。筆者も何度も試みては失敗しているが,急速冷凍法を行って固定した眼球を変形しないように丁寧に切って割面を出しても,正確な計測は実体顕微鏡下でも微細な変形が加わり困難であり,まして病理検査用の固定眼を使っても,標本作製のための人為的変形が大きく加わってしまう。人の生体眼の隅角の定量的計測はこれ以上に難しい。
上記の聖マリアンナ医大式装置による計測法は,無侵襲で人生体眼を計測出来る利点はあったが,15MHzの探触子では分解能の点でマクロの組織計測法としては限界があった。ところが,数年前よりカナダで開発されつつあった50MHz探触子を用いる高周波超音波診断装置が実用化されるに及び,これらの点が解決された。わが国でも,長年補聴器を手がけてこられたR社の努力で高周波装置が実用化され,筆者のアドバイスを受け入れて下さり,改良が加えられ,眼科用装置として完成された。早速前房隅角角度計測を行ったが,両装置ともに,生体眼の前房隅角角度の定量的計測のほか,緑内障前眼部構造の解析に有用である。さらに前眼部の腫瘍,外傷,角膜,結膜,ぶどう膜(前部),角膜の検索に,またIOLのループの固定位置の確認にも,また細隙灯生体顕微鏡でも不十分な角膜や虹彩の厚みの計測や裏側の状況の観察にも有利である。それにしてもultrasound biomicroscopy(超音波生体顕微鏡的検査法)とはカナダ学派によるうまい命名である。このUBM法により緑内障の,特にPACGや先天緑内障などの形態異常眼の解析がさらに進歩するものと思われる。
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