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医学研究の目的の1つに,「治らないあるいは治りにくい病気」,いわゆる難病を治療できるようにすることがある。赤痢や結核が「治らない病気」であった時代には,医学研究はそれらの克服に注力された。これは眼科についても同様で,白内障が失明の重要な原因疾患であった時代には眼科研究の多くが白内障の克服に注力されたのである。1990年代には,滲出型加齢黄斑変性が難病とされたが,抗VEGF薬により滲出型加齢黄斑変性の治療が一定の効果をあげつつある現在は難病とはいいがたい。このように,難病の種類は時代とともに変化しているのである。
さて,歴史的に見ると,日本の難病とその対策は少し他国と異なっている。昭和30〜40年代に社会的に大きな衝撃を与えたスモン(SMON:subacute myelo-optico-neuropathy)の原因が,厚生省主導の研究班による全国疫学調査により短期間に解明され,それに基づいた効果的な対策が立てられた。さらには,昭和47年(1972年)に難病対策要綱が策定され,「難病」に対する行政的な取り組みが開始されたのである。難病は原因不明のため治療薬の開発が困難なことに加えて,患者数が少なく市場が限定的なため,企業が新薬開発に取り組むのが困難なことが多い。その意味で,行政が主体となって包括的な取り組みを行う日本の難病対策は,世界でも例のない成功した事業で,難病の病因解明と新規治療法の開発に大きく寄与してきた。ただし,時間を経るにしたがって対象疾患の増加,施策実行のための安定した財源がないなどの問題が明らかになり,平成27年(2015年)に新難病医療法「難病の患者に対する医療等に関する法律」が法制化されて,医療費補助対象となる指定難病の拡充と消費税などをその財源とすることが決定された。
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