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裂孔原性網膜剝離(以下,網膜剝離)は,古くから存在が知られてきた疾患である。そして,本疾患の発生病理と眼球の解剖学的特徴を考えると,これからも一定数の発生が避けられない疾患であると考えられる。以前は,網膜剝離は難治疾患であり,失明に至る患者さんが少なくなかったが,現在は適切な治療を行えば治癒可能な疾患になっている。本疾患の発生病理は以前と大きく変わっていないが,その病像や治療法あるいは予後は,時代とともに大きく変化している。例えば,眼科医療の進歩拡充とともに重症患者の割合は減少しているし,社会の高齢化とともに好発年齢も変化している。また治療に関していえば,以前は強膜バックリング法が主であったが,現在は硝子体手術が主になっている。これ以外にも,網膜剝離を巡る学問や環境は常に変化しており,より良い治療成績を低い社会的コストで達成するには,そのときどきの網膜剝離の実態を正確に把握する必要がある。ただし,本疾患の実態把握は簡単ではない。なぜならば,治療法が各国の医療制度や医学教育制度に影響されており,諸外国のデータがそのままわが国の網膜剝離の実態を反映するとは限らないためである。例えば,米国では白内障手術との同時手術があまり行われないが,これは医学的というよりも政治的な理由によるものである。
そこでわが国の実態を正確に把握・理解するために,日本網膜硝子体学会は網膜剝離レジストリ(J-RDレジストリ)という疾患登録システムを完成させた。本特集ではJ-RDレジストリの結果を中心にわが国の網膜剝離の実態を解説し,それに基づいた治療戦略を解説する。一般的に問題解決するには,実態を正確に把握して合理的な対策や政策を立てる必要がある。それらの意味から,J-RDレジストリの結果はわが国の網膜剝離学における大きな進歩であり,これからの議論の基礎になるものである。そのことを念頭に置いて,本特集をお読みいただければより理解が深まると思われる。
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