眼科動物園・5
鯨は眼球を水深計として使つている
鹿野 信一
Shinichi Shikano
pp.1493-1495
発行日 1977年12月15日
Published Date 1977/12/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410207548
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最初におことわりしておくが,私は人間の眼球の専門家で,鯨の眼玉の専門家ではない。何故その私に鯨の眼についてかけといわれたのかはなはだ解せない。想うに一時人間の隅角のからくりを明かにするために兎,鼠,犬,猫,馬,牛,豚などの房水排出路を調べていたことがある。これが誠に千差万別,人間とはちがつていて大変面白い問題を示してくれた。その頃,たまたま,内科の方で捕鯨船医として冒険を楽しんで来られた方が,数個の鯨の眼球のアルコール漬けを下さつたので,その一つ二つをきつて標本にし,雑誌に数行書いたことがある。そうそれはもう十年以上前のことであるが,それを耳にはさんだ編集者の方が,この様な私にとつて迷惑千万の注文を出したのであろう。
したがつて私のこれから書くことははなはだ非科学的の,いわば与太話みたいなものである。第一その鯨が,どんな鯨だか,長須鯨だか,まつこう鯨だか何鯨だか聞いてなかつたのでわからない,ただ十年前に日本の捕鯨船でよく獲つたたちのものというにとどまる。
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