連載 わが憧れの老い・2
人生と和解する老い 映画『八月の鯨』と『永遠と一日』
服部 祥子
1
1大阪人間科学大学人間科学部
pp.1048-1052
発行日 2006年11月1日
Published Date 2006/11/1
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1688100738
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老いの一日――重い回想の扉が開く時
人生の途上で,人はしばしば自分の生きてきた日々を思い起こす。若い頃,私も過去の断片的なできごとやエピソードを脳裏によみがえらせ,懐かしさやほろ苦さ,わくわくする思いや悔恨の念に胸をふるわせることがあった。
しかし年齢を重ね,老いの季節を迎えた今,もっと深くもっと重い回想の扉が目の前で開くことを知った。はるか彼方の道の始まりあたりからずっと続いてきた人生の全貌が,霧の晴れ間に浮かび上がる風景のように姿を現わし,それを身じろぎもせず眺めて,立ちすくむような瞬間に出会い始めたのである。
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