糖尿病性網膜症の臨床的観察—デキストラン硫酸の使用経験

Clinical Observation on Diabetic Retinopathy:Clinical Experience with Dextran Sulfate

I．緒言

　糖尿病性網膜症の治療として，今日までいろいろな方法が用いられ，使用された薬剤の報告も多数あるが，決定的な治療法は確立されていない。過去の報告にもあるように，糖尿病性網膜症の発症および進行因子は種々あり，その原因はきわめて複雑なものであることは推察できる。したがつて治療法においても同様であり，決定的治療法を確立することは非常に困難なものであろう。

　今回，著者は糖尿病性網膜症の患者15症例に対し，脂血清澄化作用，線維素溶解作用，抗ヒアルロニダーゼ作用などを有し，抗動脈硬化剤として注目されているデキストラン硫酸を投与し，かなりの効果が認められたので，その結果を報告する。

Fifteen patients with diabetic retinopathy were treated by peroral dextran sulfate (MDS Kowa). Patients were given 6 tablets (900mg) daily for periods of 6 to 8 months. Regression of retinopathy either in the form of improve-ment of visual acuity or disappearance of exu-date, microaneurysms or haemorrhagic patches resulted in 10 treated cases. No undesirable side effects were observed throughout the period.