臨床實驗
多發硬化による慢性球後視束炎か,煙草アルコホル中毒か?
桑島 治三郞
1
1東北大學長町分院眼科
pp.1028-1031
発行日 1952年11月15日
Published Date 1952/11/15
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410201347
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わが國における球後視束炎の多くが,歐米のそれと異る特殊なものとして論じられる傾向があり,この風潮の根抵をなすものは,多發硬化症と煙草アルコホル中毒が歐米にあつてまず第1に球後視束炎の最も多い原因としてあげられるに反し,わが國にあつてはこの兩症が最も稀れなもので,わが國に多發する球後視束炎の原因として問題にならないものと考察された處に根ざしている。
しかし多發硬化がわが國に見られないという定説は神經病理ないし神經眼科學的に多くの誤謬と盲點とを内包したものであり,速やかに揚棄すべきものであることは,私のこれまで多くの根據をあげて強調してきた處である。また,煙草アルコホルの慢性中毒による球後視束炎は,かつていわれたように煙草ないしアルコホル自身の特殊な毒性による中毒で起るものでなく,今日の見解によれば,これらの中毒患者における榮養素の相對的失調,とくに體内におけるVit.Bの過度の消粍によることが明らかにされている(Walsh, Boyd)然りとすれば,わが國の球後視束炎,とくにその慢性型のものとVit.Bとの關係が早くから注目されたことは周知のことで,脚氣弱視の問題が學界を賑わすと同時に,反面ではわが國の球後視束炎の原因を歐米のそれと異る特殊なものとする傾向に最も有力な拍車を加えたものであつたが,今日この傾向は新しく再批判されなければならないものとなる。
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