〔Ⅰ〕原著及臨牀報告
遠見複視の一例について
德田 久彌
1
1東京帝大眼科
pp.83-84
発行日 1947年5月20日
Published Date 1947/5/20
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1410200192
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患者は35歳の男で職業は工員,初診は昭和21年10月7日である。9月28日夜祭を見に行つて舞臺の灯や踊る人がふたつに見えるのに氣がついた。驚いて翌日醫者を訪れたら亂視だらうと云はれた。複視は遠くを見る時だけ現れる。10日經つが複視は消えないので外來を訪れた。複視が突然出現する迄に何ら病氣らしいものを經驗したことはなく熱性病に罹つたこともない。只10年前頃性病にかゝる機會があつたが血液檢査はしたことがない。診ると視力は右0.1(0.8×−1.5D)左0.4(0.8×−1.5D)で開散麻痺の患者によくみられる遠視はない。外眼部は總べて正常で瞳孔左右同大,對光反應,輻輳反應も正常である。眼位も正常で遮蔽法によつても眼球の整復運動は起らない。眼球運動も總べての方向に異常を認めない。1.5m位離れた物體を固視させると,同名性複像が現れ,直立しており,高低の差はないが,外方で僅か開大する樣である。物體を近づけて行くと1m位で複像は消失する。逆に物體を50cm位から遠ざけてゆくと1mでは複視は現れず1.2m位で出現する。マドツクス小桿をかけると5mで5°の内斜位がある。2°の外轉性プリズムで複視は消失する。注視野は兩眼とも狹窄してゐない。2mの距離で檢査點間隔50cmにして複像檢査をすると同名性複像が現れ正面4cm側方5-6cmの間隔を示す。W.Rは強陽性であつた。
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