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『眼科ケーススタディ 網膜硝子体』が,𠮷村長久先生と喜多美穂里先生を編者に医学書院から発刊された。板塀を思わせるチョコレート色の瀟洒な表紙の本書,京都大学医学部眼科学講座が精魂を込めて完成させた網膜硝子体疾患のガイドブックであるが,一見して,その構成に多くの創意と工夫が凝らされていることがわかる。基本線として,患者背景や主訴あるいは眼底所見をベースにした31に及ぶ症例バリエーションが呈示され,それぞれにOCTを中心とする詳細な病態解説が続く。次の【Point】では,類似症例をリストアップし,鑑別診断のコツが要約されているほか,随所に散りばめられた【Memo】では,その項目に関連した豆知識を学ぶこともできる。眼底写真をはじめとする多数の図表,そして程よい量のテキストの中,フリーな気分で網膜硝子体疾患を学ぶことができる設計になっているのである。
「序」において編者らも述べているように,光干渉断層計(OCT)の出現は網膜硝子体疾患の臨床に革命的な変化をもたらしたと言える。眼底所見や蛍光眼底造影所見といった平面的な情報を基に感覚的に網膜硝子体疾患を考える時代から,個々の眼底所見を病理解剖学的な側面から確認しつつ,生じている病態をより深いレベルで考察しうる時代に入ったからである。本書編集のリーダーシップを取られている𠮷村先生はわが国を代表するclinician scientistであり,基礎研究者としても,また臨床家としても卓越した識見の持ち主であるが,この書に彼の理想とする網膜硝子体の臨床のあり方が具現化されているに違いない。京都大学眼科といえば網膜硝子体が看板であるが,これほどの長きにわたってその伝統が続いている教室は全国でも他に類を見ない。本書の行間にその歴史が生み出す凛としたオーラを感じるのは評者だけであろうか。
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