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はじめに
角膜疾患による失明の治療には角膜移植が行われており,技術的には確立された治療であるが未だ問題も残されているのが現状である。世界的には,角膜の疾患による失明患者が1,000~1,500万人いることが推定されており,角膜移植用のヒト角膜は不足している。また,免疫拒絶や合併症の併発で,角膜移植不適合となる症例が2割ほど存在するといわれている。角膜上皮疾患に由来する症例に対する新しい医療として,角膜上皮シートの移植1)や角膜輪部の幹細胞移植2)などが始まり良好な成績を収めている。しかし,角膜実質部分に疾患を抱える場合は適応とならず,実質の再生の研究も進められているが,未だ臨床に足る材料は開発されていない。このような症例には,視力回復の手段として人工角膜の適応が選択されることとなる。
人工角膜の研究開発の歴史は古く,19世紀にさかのぼる。フランス,ドイツ,日本の眼科医の発案とその研究成果として散見され3~5),材料としてはガラスや水晶を用いたものであった。これらの人工角膜は,4~5か月程度の視力回復が報告されているが,感染症などにより失明に至っている。その後,合成高分子であるPMMA(ポリメチルメタクリレート)を素材とした人工角膜が,1944年初めてWunscheらにより試みられ,その後多数の研究者により透明な合成高分子を用いた人工角膜の研究が進められている。近年,再生医療の進歩に伴い,組織工学技術と人工材料を組み合わせたハイブリッド型の人工角膜の研究も始まっている。純粋な再生工学的アプローチに関しては視機能再生工学執筆の諸先生方にお任せし,本項では,生体材料を中心に用いた人工角膜の研究開発の現状と筆者らの研究成果を紹介する。
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