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はじめに
角膜内皮細胞は神経堤由来の細胞であり,ヒトでは生後の増殖能は非常に限られている。角膜内皮細胞の極端な減少は,角膜実質と上皮の浮腫をきたす水疱性角膜症となる。従来は角膜内皮を含むドナーを使って,全層角膜移植(penetrating keratoplasty:PKP)を行う以外に治療する手段はなかった。しかし,ドナー角膜に対する拒絶反応や,術後長期にわたる内皮密度の減少によって再手術を要することは少なくない。2回目のPKPは初回に比べて免疫学的に不利であり,拒絶反応の発症率が格段と高くなる。免疫抑制薬が有効であるとする報告もあるが,全身投与による副作用は無視できず,また長期投与による経済的負担も多くなる。
角膜内皮の再生工学へのアプローチは,基礎,臨床の両面から進められている。臨床的な試みとしては,術式の改善による拒絶反応の回避が挙げられる。PKPが拒絶反応をきたす原因にはドナー上皮由来の抗原が関与しているといわれている。そのため,あらかじめ上皮を除去するなどの工夫もされてきたが,炎症を惹起するなどの欠点もあった。そこで近年注目されるようになったのは,PKPのように全層を移植する方法に替わって登場した,角膜内皮を移植する術式である。現時点では内皮だけを移植する術式の臨床応用は始まっていないが,深部実質を含むドナー組織の移植法は報告されている。しかし,ドナー組織を使う以上は,ドナー不足という問題は解決されない。角膜内皮の再生工学を基礎研究面から開発する動きも活発となっている。研究の柱となっているのは,角膜内皮細胞の供給源としての内皮幹細胞の分離同定と,これらの細胞を移植する際の術式とキャリアの開発である。筆者らは臨床面,研究面の両アプローチから内皮再生に取り組んでおり,本項ではそれらについて簡単に紹介する。
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