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はじめに
日本における糖尿病患者と耐糖能異常者の合計は厚生労働省での糖尿病実態調査(2002年)で1,620万人にも達している。糖尿病は代表的な生活習慣病であり,その生命予後および生活の質(quality of life)を維持するためには糖尿病慢性合併症の管理が重要である。糖尿病網膜症は糖尿病患者の16%に発症すると報告されており1),日本における中途失明原因の第1位となっている2)。
糖尿病網膜症の病因では網膜血管閉塞による網膜虚血が重要であり,その背景には網膜血管内皮細胞自体の脆弱化に加え,血管内皮基底膜の変化に伴う血管の脆弱性が考えられている3)。この基底膜変化は網膜症に限らず,皮膚4),腎臓5)といった全身の毛細血管で確認されている。特に糖尿病患者では眼手術や外傷などのストレス後に角膜上皮障害が発症しやすく,その創傷治癒が遅延するといった糖尿病角膜症(diabetic keratopathy)をしばしば経験する6)。糖尿病角膜症においても上皮基底膜異常が報告されており6~8),筆者らは糖尿病ラットで創傷治癒過程における角膜上皮基底膜を構成する細胞外マトリックスの発現の差を報告した9)。
生体共焦点顕微鏡は角膜を細胞レベルで観察することが可能であり,さまざまな角膜疾患において形態学的な病態解明に貢献している10)。生体共焦点顕微鏡の1つであるConfoScan(R)((株)トーメー)では角膜を細胞レベルで観察するモードと,角膜の構成成分から得られる反射散乱光を検出・記録するモード(Z-Scan)を備えている。Z-Scanで測定される反射散乱光は角膜内の混濁やコラーゲン線維の配列の乱れなどで増加し,上皮基底膜の肥厚や粗そうが存在した場合はその部位での反射散乱光も増加すると考えられる。
今回筆者らは糖尿病患者の角膜でZ-Scanの検査を行い,角膜上皮基底膜部分の散乱光が糖尿病網膜症の重症度と相関して上昇することを見いだした。本項では,この研究結果および眼科臨床における生体共焦点顕微鏡の可能性について報告する。
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