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現在,視神経・ぶどう膜炎を専門にさせてもらっている関係で,担当する患者さんの大部分が背景に全身疾患のある症例のように思います。毎回,関連する各専門科の先生方にいろいろとご指導頂きながら診療にあたっており,日々非常に有難く思っているのですが,ときに疾患に対する認識に温度差を感じて戸惑うこともあります。私が経験したそのような症例をいくつかご紹介します。
57歳の男性が,人工心肺下に心臓バイパス術を受けてICUに入り,術後数日目の意識回復時より,両眼の視力低下を自覚し当科を受診されました。視力は両眼とも指数弁で,20年来放置の糖尿病がありました。眼底には広汎な無灌流野を伴った糖尿病網膜症があり,両視神経乳頭は蒼白浮腫を呈していました。中心暗点を示す視野所見,眼底造影所見などと合わせて両眼の虚血性視神経症と診断し,発症は循環器系疾患と糖尿病を背景に人工心肺下の血圧変動が契機になったと考えました。すぐに執刀科の主治医と連絡を取り,ステロイドパルス療法を施行しましたが,中心暗点は残存し最終視力は両眼0.02程度でした。虚血性視神経症は一般に予後不良なので深刻な術後合併症であると考え,眼科的にはかなり慎重にムンテラしながら治療にあたったのですが,稀なケースでもあり,執刀した外科主治医側ではあまり医原性疾患としては認識されていなかったようでした。退院後,全身的には順調に回復されて外来通院を続けておられ,ご家族ともに生命にかかわる事態を回避できたことを喜ばれていましたが,やはり視力を失ったことは心残りのようでした。一方は患者さんの生命を救うという重要な使命を負う立場,他方われわれは直接生命にかかわることは滅多になくQOLの向上を主な使命とする立場であり,当然ではありますが同じ患者さんを前にして疾患に対する認識が随分ちがうものだと改めて感じたケースでした。
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