今月の臨床 生殖医療とバイオエシックス
体外受精
6.法的規制 2)民法上の問題点
水野 紀子
1
1東北大学法学部
pp.1048-1053
発行日 1999年8月10日
Published Date 1999/8/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409903740
- 有料閲覧
- 文献概要
- 1ページ目
民法の定める「法律上の親子」とは何か
民法の定める親子法は,たしかに現代の医学の発達を前提とはしていない.母親は分娩によって特定できるけれど,父親がわかりにくい時代に立法されたものである.現在の鑑定技術を想定していないことはもちろん,体外受精などの生殖技術も予定されていない.したがって民法は,結婚している母親から産まれた嫡出子については,母の夫を父親と推定し(嫡出推定*1),未婚の母親から産まれた非嫡出子については,父親の認知によって父子関係が成立するものとしている.
しかし民法の規定する親子関係法は,血縁上の親子がわかりにくいという理由でのみ,嫡出推定や認知という法的技術を設けたのではない.むしろ親子関係を規律するにあたって子の利益をはじめとするさまざまな法益を考慮して複雑な権利義務の枠組みを構築し,実親子関係であっても,血縁上の親子と法律上の親子とが異なりうることを前提として設計されている.民法の法的技術があえて血縁と完全には一致しない法律上の親子という概念を作ってきたことの意義は,現代の医学の発展を取り入れた立法や解釈をするにあたっても,まず十分に考慮されなければならないであろう.
Copyright © 1999, Igaku-Shoin Ltd. All rights reserved.