CURRENT RESEARCH
妊娠維持と免疫機構
藤井 知行
1
1東京大学医学部産科婦人科
pp.1205-1213
発行日 1998年9月10日
Published Date 1998/9/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409903411
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妊娠は免疫学的に不思議な現象である.このことを,私は医学部の学生時代に産婦人科のゼミで聞いた.卒業後,産婦人科医となったが,妊娠と免疫に関する興味は続いていた.ちょうどそのころ,1981年に英国のテーラーらのグループが,習慣流産に対する免疫療法を発表したのを受けて,日本でも原因不明習慣流産に対する夫単核球皮内免疫療法が行われはじめていた,テーラーらが唱えていたのは,夫婦が免疫的に似ているとかえって児に対する母体の拒絶反応が誘発され,習慣流産になるという.それまでの移植免疫学とは反対の学説であり,私は大いに感銘を受けた.そこで,当時の母教室主任教授であった故水野正彦教授および川名尚助教授(現東大分院教授)に指導をお願いして,妊娠を成立させる免疫機構の研究を開始したのである.その後,妊娠免疫に関する研究は,免疫学の一分野として世界的に大きく発展したが,私はそのなかで,妊娠免疫反応を誘発する最初の信号はトロホブラストが出していると考え,トロホブラスト上に発現するHLAクラスI抗原であるHLA-G抗原に注目した.この抗原の発見者である米国のゲラティー博士のもとで研究する機会を与えられた幸運もあって,現在はHLA-Gの妊娠における生理的,病理的意義に関する役割を中心として研究を行っている.
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