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筋サテライト細胞の研究は1961年にMauro博士が電子顕微鏡を用いてカエル骨格筋標本を観察し報告したことによって幕を開けた1)。Mauro博士は筋線維を取り囲む基底膜の内側に単核の細胞を発見し,筋サテライト細胞(Muscle satellite cell)と命名した。特筆すべきことに,Mauro博士は筋サテライト細胞の発見当時から筋サテライト細胞が骨格筋の再生を担う本質的な細胞であることを予想していた。しかしながら20世紀後半には,骨格筋に分化可能な細胞が筋サテライト細胞以外にも多数報告されたことから,筋サテライト細胞は筋再生を担う本質的な細胞であるのか? また,幹細胞であるのか,それとも筋前駆細胞であるのか? など大きな議論を呼んだ。しかし,この約10年間の研究から筋サテライト細胞は紛れもなく生理的に骨格筋を構築する幹細胞であることが再認識された。つまり,Mauro博士の予想が正しかったことが実験的に裏付けられた。
筋サテライト細胞は生体内で生理的に筋線維に分化する幹細胞であり,今までに報告された細胞の中では,最も筋形成能力が高い。Collinsらは筋サテライト細胞を筋線維に接着した状態で移植すると,1個の筋サテライト細胞が推定で約4,000個もの娘細胞を生み出すことができると報告している2)。このように,筋サテライト細胞の筋形成能力は非常に優れていることから,筋ジストロフィーなどの筋疾患治療に対する細胞移植源として期待されている。しかし,現実的には移植に必要な細胞数の確保が困難であるため,いかに筋サテライト細胞に近い能力を持った細胞をiPS細胞や線維芽細胞から分化誘導するかが鍵となっている。また,筋サテライト細胞の数や能力の低下は筋ジストロフィーなどの筋疾患の病態進行に直接かかわっている。さらに加齢による筋萎縮(サルコペニア)では同じく筋サテライト細胞の数や能力の低下がみられる。これらのことから,筋サテライト細胞と筋疾患との関連は現在非常に注目を集めている。しかし,なぜこれら筋疾患において,筋サテライト細胞の数や能力が減少するのかはほとんど理解されていない。さらに言えば,正常な状態において筋サテライト細胞を維持する分子機構が理解されていないのが現状である。そのため,筋ジストロフィーやサルコペニアの病態進行機序の理解だけでなく,iPS細胞や線維芽細胞から筋サテライト細胞様細胞を創製するうえでも,筋サテライト細胞を維持する分子機序を明らかにすることは急務の研究課題として挙げられている。
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