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Ⅰ.概念
1960年,Lunenfeldらが初めて,開経婦人尿よりゴナドトロピンを抽出,精製し無月経婦人に投与し卵胞刺激効果を認めて以来,hMG製剤が広く臨床応用されるようになった。しかしながら,hMG製剤はその優れた卵胞成熟効果にもかかわらず,その投与に当たっては細心の注意を払わねばならない薬剤である。その第1の理由は多胎妊娠や卵巣過剰刺激(OHSS)などの副作用の発生が他のどの排卵誘発法と比べても高いこと,第2は,特にPCO (多嚢胞性卵巣)ではOHSSが重症化しやすく,また薬剤投与中に卵胞の早発黄体化や閉鎖化が起こり易く使い方が難しいこと,第3は,副作用防止のためには卵胞発育のモニタリングは必須であり,最近では尿中や血中のエストロゲンの測定,超音波診断法などが応用されるようになってきたが,それでも副作用の発現を抑えることはできず副作用防止上の確実なモニター法がないことである。このうちはじめの理由については従来のhMG製剤特性,すなわち従来のhMGにはFSHばかりでなく相当量のLHも含まれていることが主要な原因と考えられる(Schoemaker,1972)。
正常な卵胞成熟には充分なFSHと少量のLHが必要とされる。特に卵胞発育の初期段階においてはFSHが絶対的に必要であり,これにエストロゲンの作用が加わるとFSHは顆粒膜細胞のFSH自身の受容体の産生やLHの受容体の形成を促進するようになる(Goldenberg 1972,Nimrod 1976,Richards 1976)。これに対し,LHは主に卵胞の葵膜細胞に作用しアンドロゲンの産生を刺激する。アンドロゲンはエストロゲンの前駆体であるばかりでなくアンドロゲン自体にも卵胞を閉鎖させる作用があるので(McNatty 1979),PCOのように内因性のLH分泌の高い病態では血中アンドロゲン値が高くなり,その結果閉鎖卵胞の発生やFSHに対する感受性の亢進が起こりやすくなっている。したがってPCOではできるだけLH活性の少ないhMG製剤の投与が望まれるわけで,これまでにも低LH含量のhMG製剤が開発され臨床的に応用されたが,その結果はFSHと同量かもしくは相当量のLHを含んでいる従来のhMG製剤にくらべ多胎やOHSSの発生が少なくなることが明らかにされている(Raj 1977,Kamrava 1982,Seibel 1984)。
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