明日の展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 卵巣
Ⅱ腫瘍を中心に
術後照射が予想される子宮頸癌の術時卵巣処置
一戸 喜兵衛
1
,
椎名 美博
1
,
山田 良隆
1
,
馬渕 義也
2
Kihyoe Ichinoe
1
,
Yoshiya Mabuchi
2
1北海道大学医学部産婦人科学教室
2和歌山労災病院産婦人科
pp.175-182
発行日 1984年3月10日
Published Date 1984/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409206953
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卵巣は子宮と隣接した臓器であるため,子宮癌治療での広汎性子宮全摘術に際して卵巣への癌転移の可能性を配慮するあまり,躊躇なく卵巣摘除をしてきた。しかし,子宮頸癌で卵巣転移率のきわめて低いことに関しては多くの報告1〜7)があり,また子宮頸癌の卵巣転移にはその組織型や子宮体部への浸潤の有無,癌の進行度などで左右されることが報告されており8),これらの条件をうまく避けうれば卵巣の生体内保存が充分可能であることが次第に明らかとなった。
しかし卵巣をorthotopic (in situ)に保存しえたとしても,術後の放射線照射(照射と略す)が必要とされた場合には卵巣機能の廃絶という新たな問題に直面する。したがって照射で簡単に中絶する卵巣機能をそのまま活発に維持するためには,卵巣を照射野外に移動する必要が生ずる。このような目的で,すでに古くから卵巣の自家移植がなされ,大野(1929)9),八木(1957)10)など貴重な試みが報告されてきた。しかしこの方法は摘出卵巣を分割して植えこむため,実験小動物でみられるような良好な成績11)とは異なり,長期間の機能維持は血行障害により期待に反してほとんど不成功であった。この卵巣の位置移動による卵巣血行確保には,近年発達したmicrosurgeryの手法を利用するのも一法ではあるが,まだ報告はない。
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