明日の展開--ヒューマンバイオロジーの視点から 卵巣
Ⅱ腫瘍を中心に
卵巣腫瘍の組織発生
薬師寺 道明
1
Michiaki Yakushiji
1
1久留米大学医学部産婦人科学教室
pp.157-162
発行日 1984年3月10日
Published Date 1984/3/10
DOI https://doi.org/10.11477/mf.1409206950
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婦人科領域の悪性腫瘍のうち,子宮頸癌の予後は箸しく改善されてきたことは周知のごとくである。しかし,その歴史的背景には,腫瘍の組織発生や性格の解明に努力してきた先輩達の成果が,現在の診断技術と治療法の確立に結びついていることを忘れてはならない。
一方,同じ領域の悪性腫瘍である卵巣癌はどうであろうか。残念ながら,その予後は極めて不良で,最近の米国の統計では女性骨盤内悪性腫瘍の死亡率の第1位を占め,我が国でも例外とはいえない状勢にある。このように卵巣癌の予後が不良な原因の第1は,早期診断の困難性が挙げられよう。すなわち,初期症状に乏しいこと(他臓器の悪性腫瘍にも共通した問題ではあるが),卵巣の非直達的な解剖学的位置,さらに腫瘍の発生が企ての年代層にわたること等が,子宮癌に匹敵する検診体制の確立を遅らせる結果になっている。第2は,卵巣に発生する腫瘍が極めて多いため,各々の腫瘍の組織発生や性格について不明な点が多く残されていることによる。とくに第2の問題は,血清学的手段を含めた診断法の開発にブレーキをかけているし,また各腫瘍の性格を考慮した治療法の確立を困難にしている。したがって,早期発見のための臨床的な努力は勿論のこと,同時に腫瘍の組織発生や性格の解明のための努力も重要なことが理解できよう。
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